有名な研修会社に管理職研修を依頼し、数百万円規模の費用をかけた。にもかかわらず、受講後の現場から「内容が自社と関係なかった」と言われた——そんな経験を持つ人事担当者は珍しくありません。悪いのは研修会社ではなく、発注の仕方です。
研修の失敗は、研修会社の質の問題だけではありません。発注する側の準備と関与の仕方に、大きな原因があることが多いのです。この記事では、丸投げが失敗する理由と、成果につながる発注の仕方を解説します。
研修発注の方法——先に手順だけ
「発注の方法を知りたい」という方のために、順番だけ先に書きます。理由は後半で説明します。
1. 何を変えたいのかを一文にする。「管理職研修をやりたい」ではなく、「部下との1on1が形だけになっているのを変えたい」まで具体化する
2. 対象者を絞る。全員ではなく、どの層のどんな状態の人か。人数と、現在の力量
3. 終わったときにどうなっていてほしいかを書く。「理解する」ではなく、現場で何をしている状態か
4. 予算と時期の幅を決める。上限だけでなく、下限も。ここが空欄だと提案が出せません
5. 社内で決める人を確定する。誰が最終判断するのか。ここが曖昧だと、いい提案が出ても止まります
6. 2〜3社に同じ条件で聞く。条件を揃えないと比較になりません
7. 提案を受けたら、事前の打ち合わせ回数と、当日以降に何が残るかを確認する。ここが各社で最も差が出ます
1から3が埋まっていれば、研修会社は具体的な提案を出せます。逆に、ここが空のまま声をかけると、どの会社からも似た一般論が返ってきます。
「丸投げ」が失敗する3つの理由
研修会社に全てを委ねると、次の3つの問題が生じがちです。
▶ 課題が正確に伝わらない
研修会社はヒアリングをしますが、発注側が「何を解決したいか」を言語化できていないと、標準的なプログラムがそのまま提供されてしまいます。汎用的な内容では、自社固有の課題は解決できません。
▶ 現場の実態とプログラムがズレる
外部の研修会社は自社の現場を知りません。受講者の業務内容・スキルレベル・組織文化を十分に理解しないまま設計されたプログラムは、「自分ごと化」されにくく、学んだことが定着しません。
▶ 研修後のフォローが抜け落ちる
研修会社の役割は「研修を実施すること」です。研修後に学びを職場で実践させる仕組みは、発注側が設計しなければなりません。丸投げではこの部分が抜け落ちます。
研修会社が引き受けられない部分がある
これは精神論ではありません。研修の効果を扱った研究では、学んだことが職場で実践されるかどうかは、研修そのものの質だけでなく、職場の環境や上司の関わりに大きく左右されるとされています(Baldwin & Ford, 1988/Blume ら, 2010 の89研究のメタ分析)。
職場の環境と上司の関わりは、外部の研修会社が動かせる部分ではありません。ここが「丸投げでは届かない」ことの理由です。研修会社の仕事は当日までで、成果が出るかどうかは戻ったあとに決まります。
出典:Baldwin, T. T., & Ford, J. K. (1988). Personnel Psychology, 41(1), 63-105./Blume, B. D. ほか (2010). Journal of Management, 36(4), 1065-1105.
発注前に発注側がやるべきこと
研修会社を上手に活用するには、発注前に自社側で整理しておくべきことがあります。
- 解決したい経営課題・人材課題を具体的に言語化する
- 対象となる受講者の現状スキルと目標レベルを明確にする
- 研修後に「どう変わっていてほしいか」という成果イメージを持つ
- 研修前後のフォロー体制(上司の関与・OJT・実践の場など)を考えておく
これらを整理した上でRFP(提案依頼書)として研修会社に渡すことで、提案の質が格段に上がります。「何となく管理職研修をやりたい」ではなく、「マネジメント課題の背景と求める人材像」を伝えることが重要です。
発注前に「受講者が研修後3ヶ月で取ってほしい具体行動」を3つ書き出しておくだけで、研修会社からの提案の質は大きく変わります。
研修会社との「正しいパートナーシップ」の築き方
研修会社はあくまで「専門家パートナー」です。丸投げするのではなく、自社の課題解決に向けて協働する関係が理想です。
良いパートナーシップのポイントは次の通りです。
▶ 研修設計の段階から積極的に関与する
プログラム内容・事例・演習テーマなどは、発注側が現場情報を提供することで精度が上がります。「おまかせ」ではなく「一緒に作る」姿勢が重要です。
▶ 受講者の状況を定期的にフィードバックする
研修中・研修後に受講者の反応や職場での変化を研修会社に共有することで、継続改善が可能になります。
▶ 単発ではなく継続的な関係を構築する
一度の研修で成果を求めるより、長期的なパートナーとして継続的に設計・改善を繰り返す方が効果は出やすくなります。
まとめ:研修は「発注して終わり」ではない
研修会社に丸投げして失敗するのは、研修会社が悪いのではなく、発注の仕方に問題があることがほとんどです。
成果につながる研修発注の要点をまとめます。
- 発注前に自社の課題・対象・目標を言語化する
- 研修設計に発注側も積極的に関与する
- 研修後のフォロー体制をあらかじめ設計する
- 研修会社とは長期的なパートナー関係を構築する
今週中に、次回の研修について「この研修で解決したい課題」と「研修後に受講者に取ってほしい具体的な行動を3つ」を箇条書きで整理してみてください。それを研修会社に渡すだけで、提案の質が変わります。
ディレクターズコネクトでは、研修の企画・発注段階からご相談をお受けしています。研修発注の設計や研修会社との協働体制づくりについても、ぜひお気軽にご連絡ください。