「同業のA社がこうやって成功したらしい」。この情報から企画が始まることは、よくあります。

他社事例を集めること自体は正しい行動です。ただ、そのまま持ち込もうとすると、たいてい途中で止まります。理由は単純で、同じシステムを使い、同じプロセスで、同じ人が働いている会社は存在しないからです。

なぜそのままは使えないのか

同じ業界であっても、実際に見ていくと前提が揃いません。

▶ 使っているシステムが違う

基幹システムも、日々使うツールも違います。「この作業を自動化した」という事例も、そもそも作業の切れ目が違えば同じようには切れません。

▶ 業務プロセスの区切りが違う

同じ「受注処理」でも、どこからどこまでを一人が担当しているかは会社ごとに違います。分担が違えば、変えるべき場所も変わります。

▶ 意思決定の仕方が違う

現場に裁量がある会社と、稟議で決める会社では、同じ施策でも進む速さがまったく違います。

▶ 人の構成が違う

平均年齢、中途と新卒の比率、離職率。どれも、変化の受け止められ方に影響します。

事例に書かれているのは結果と、うまくいった打ち手です。その打ち手が成立した前提条件までは、たいてい書かれていません。

それでも他社事例を見る意味はある

使えないから見なくてよい、という話ではありません。読み方を変えれば役に立ちます。

▶ 打ち手ではなく、課題設定を読む

「何をやったか」ではなく「何を問題だと考えたか」を見ます。ここは業界内で共通していることが多く、自社の課題を言葉にする助けになります。

▶ つまずいた箇所を探す

成功事例でも、途中で何に苦労したかが書かれていれば、そちらのほうが参考になります。うまくいった部分より、詰まった部分のほうが再現しやすいためです。

▶ 社内を動かす材料として使う

「他社もやっている」は、良くも悪くも社内では効きます。ただし、これは着手の理由にはなっても、設計の根拠にはなりません。

最初の設計が、その後のすべてを決める

他社事例を参考にした後で必要になるのが、自社としての設計です。ここを飛ばして「進めながら考える」を選ぶ組織は少なくありません。

進めながら調整すること自体は、悪いことではありません。ただ、それで到達できるのは改善であって、改革ではありません。

▶ 改善でたどり着けるところ

いまのやり方を前提に、無駄を削り、速くする。積み重ねれば確実に効果は出ます。

▶ 改善では届かないところ

そもそもその作業が必要なのか。その分担のままでよいのか。この問いは、進めながらでは出てきません。日々回っているものを止めて考える時間を、意図的に作らないと出せない問いだからです。

変革を掲げているのに改善しかしていない状態は、掲げた目標と実際にやっていることがずれています。

最初に決めておくこと

自社の設計として、着手前に決めておきたいことがあります。

▶ どこを変えないかを決める

すべてを変えることはできません。変えない部分を先に決めると、変える部分に集中できます。

▶ 誰の仕事が、どう変わるかを具体的に書く

「業務効率化」ではなく、「この人のこの作業がなくなり、代わりにこれをする」まで書きます。ここまで書けないなら、まだ設計ができていません。

▶ 何をもって進んだと言うかを決める

導入したかどうかではなく、何が変わったら成功なのか。これを先に決めておかないと、報告の段階で困ります。

▶ 止めるときの条件も決める

うまくいかなかった場合にどうするか。撤退の基準を先に決めておくと、思い切って始められます。

まとめ——参考にはするが、答えは自社にしかない

他社事例は地図ではなく、他人の旅行記です。同じ道を歩いても同じ景色にはなりません。

読むべきは、その人がどこで迷い、何を判断の材料にしたか。そこから自社の地図を自分で書く。この最初の作業を省略した取り組みは、たいてい途中で「思っていたのと違う」に行き着きます。

▶ 今週の一歩

いま参考にしている他社事例を一つ選び、「自社と前提が違う点」を3つ書き出してみてください。3つ出てきた時点で、そのまま真似できないことが分かります。