「背中を見て学べ」「現場で覚えろ」——そのやり方で人が育つには、一つの条件が必要です。「教えられる先輩が、そこにいること」。しかし今、その前提が急速に崩れています。
業務の複雑化、変化のスピード、人員の流動化が進む中で、OJT(職場内訓練)だけに育成を依存することのリスクが高まっています。この記事では、なぜOJTだけでは不十分なのかを整理し、組織として学習を設計するためのアプローチを考えます。
OJTが機能しにくくなっている理由
OJTが育成の中心だった時代と、現在では職場環境が大きく変わっています。
▶ 教える側に余裕がない
業務効率化・人員削減が進む中で、先輩・上司が部下の育成に割ける時間は減っています。「教えたくても教えられない」状況が多くの職場で起きています。
▶ 暗黙知の継承が難しくなっている
かつては長期在籍の先輩から自然に受け継がれていた知識やノウハウが、人の流動化により組織に蓄積されにくくなっています。
▶ 変化が速すぎてOJTが追いつかない
AIやDXの進展により、業務自体が急速に変化しています。昨年の「正解」が今年は通用しないケースも増え、経験の継承だけでは対応できない局面が増えています。
数字で見ても、OJTは細っている
感覚の話ではありません。厚生労働省の「能力開発基本調査」(令和7年度)では、計画的なOJTを実施した事業所は、正社員に対して60.6%でした。裏を返せば、4割の事業所では計画的なOJTが行われていないことになります。正社員以外に対しては25.1%まで下がります。
同じ調査で、人材育成に関して何らかの問題があるとした事業所は80.1%。ほとんどの事業所が、うまくいっていないと感じています。
出典:厚生労働省「令和7年度 能力開発基本調査」(令和8年7月31日公表。企業7,452社・事業所7,194事業所・労働者20,127人が回答)
「70:20:10の法則」が示す学習の構造
人材育成の分野でよく知られる「70:20:10の法則」(米ロミンガー社のロンバルドとアイチンガーによる提唱)では、成人の学習の内訳を以下のように示しています。
- 70%:仕事の経験(OJT)から学ぶ
- 20%:他者との関わり(フィードバック・コーチング)から学ぶ
- 10%:研修・読書などの形式的な学習から学ぶ
この法則は、OJTの重要性を示すと同時に、「20%の他者との関わり」と「10%の形式的な学習」が組み合わさって初めて、経験学習が機能することも示しています。OJTだけでは、学習の構造として不完全なのです。
組織として学習を設計するための3つのアプローチ
OJTを補完し、組織として学びを機能させるための設計を紹介します。
▶ アプローチ1:形式知化と共有の仕組みをつくる
現場で蓄積されるノウハウを、仕組みとして言語化・共有できる状態にします。勉強会・ナレッジベース・ケーススタディの共有など、組織の学習資産をためていく仕組みが重要です。
熟練社員のノウハウを月1回の社内勉強会で言語化・共有する——それだけの仕組みでも、中途入社者の立ち上がりは目に見えて速くなります。「本人の頭の中にしかなかったもの」が読める形になるだけで、後から入る人の負荷は大きく下がる。形式知化のインパクトは、想像以上に大きいものです。
▶ アプローチ2:フィードバックの機会を意図的に設計する
経験から学ぶためには、振り返りとフィードバックが不可欠です。上司との1on1、ピアフィードバック、研修でのリフレクションなど、「経験を意味づける場」を設計します。
▶ アプローチ3:外部インプットを定期的に組み込む
社内だけで完結した学習は、視野が狭くなるリスクがあります。外部研修・勉強会・業界イベントへの参加など、外部の知識・視点を組織に入れる機会を定期的に設けます。
まとめ:OJTは「土台」であり「全て」ではない
OJTは人材育成の重要な土台です。しかし、それだけでは現代の育成ニーズに応えられません。形式的な学習・他者との関わり・組織的な知識共有を組み合わせることで、OJTの効果も最大化されます。
「現場に任せているが、なかなか人が育たない」という状況は、OJTを補完する仕組みが欠けているサインかもしれません。
今週の一歩として、自チームで「言語化されていない暗黙知」を一つ書き出し、それを1枚のドキュメントにまとめてみてください。それが組織学習の基盤づくりになります。
ディレクターズコネクトでは、OJTと研修を組み合わせた一貫した育成設計をご支援しています。「現場育成の限界を感じている」という方は、ぜひお気軽にご相談ください。