「辞めてほしくない人ほど辞める」——この現象に心当たりはありませんか。採用に力を入れているのに、育った人材が外に流れていく。実は、優秀な人の離職率が高い組織と低い組織では、「育成・評価・キャリア設計」の設計に明確な違いがあります。
この記事では、優秀な人材が辞める構造的な理由を明らかにし、定着と成長を両立する組織の条件を考えます。
先に結論を書きます。優秀な人ほど辞めるのは、待遇が理由ではありません。自分の市場価値を把握している人ほど、成長が止まった時点で動けてしまう——それだけのことです。だから引き止めは効きません。効くのは、辞める理由が生まれない状態をつくることだけです。
なぜ優秀な人ほど辞めるのか
優秀な社員は、自分の市場価値を正確に把握しています。成長できない環境、評価されない状況、やりがいのない仕事が続けば、より良い環境を自ら探して動きます。
一方、成長意欲の低い社員は現状維持を好む傾向があり、多少不満があっても動かないことが多い。結果として、「辞めてほしくない人ほど辞める」という逆転現象が起きます。
これは組織の育成・評価・キャリア設計に問題があるサインです。
辞める理由の統計に、見落とされがちな項目があります
厚生労働省の「雇用動向調査」(令和6年)は、転職した人が前職を辞めた理由を集計しています。上位に来るのは、給料(男性10.1%)、労働時間や休日などの条件(女性12.8%)、職場の人間関係(女性11.7%、男性9.0%)です。
注目したいのは、前年からの上昇幅がいちばん大きかった項目です。男性では「会社の将来が不安だった」が7.4%で、前年より2.2ポイント上がっています。
そしてもう一つ。「能力・個性・資格を生かせなかった」は男性3.8%、女性3.7%。数字としては小さく見えます。ただ、これは「今の待遇に不満」ではなく「ここにいても伸びない」という理由です。実感として、優秀な人ほどこちらで動きます。給与の不満は言葉になりますが、この理由は言葉にならないまま辞表になります。
出典:厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概況」(転職入職者が前職を辞めた理由別割合)
優秀な人が辞める組織に共通する5つの特徴
▶ 成長の機会が与えられない
優秀な人は「今より難しいこと」に挑戦したいと思っています。同じ仕事を繰り返すだけでは、成長実感が失われます。
▶ 頑張りが正当に評価されない
成果を出しても評価に反映されない、年功序列で給与が決まるなど、努力と報酬の結びつきが弱い組織では優秀な人の不満が高まります。
▶ 上司のマネジメントが機能していない
優秀な人が最も敏感に感じるのが、上司の質です。「この上司のもとでは成長できない」と感じた瞬間に、転職を考え始めます。
▶ キャリアの将来像が描けない
「この会社にいると、3年後・5年後どうなれるか」が見えない組織では、優秀な人ほど不安を感じやすくなります。
▶ 会社のビジョンや方向性に共感できない
優秀な人は「何のために働くか」という意味を大切にします。会社の方向性に共感できなくなると、離脱の理由になります。
優秀層の離職が続いたときに退職者インタビューを丁寧に分析すると、「上司のマネジメントへの不満」と「キャリアの見通しが立たない」の2つに理由が集中する——これは非常によく見られるパターンです。裏を返せば、管理職の育成とキャリア面談の仕組みを整えることが、最も効きやすい打ち手だということでもあります。
定着と成長を両立する組織がやっていること
優秀な人材が長く活躍し続ける組織には、共通した仕掛けがあります。
- ストレッチアサインメント:少し背伸びする仕事を継続的に与える
- キャリア面談の定期実施:本人の志向と会社のニーズを擦り合わせる対話
- 成果に連動した評価・報酬:努力と報酬のつながりを見える化する
- 優秀なマネジャーの育成:上司の質が定着率を左右すると理解している
- 社内異動・挑戦機会の提供:会社の中で成長できる選択肢を用意する
これらは一朝一夕には整いませんが、人材育成の仕組みとして意識的に設計することで、定着率は着実に改善できます。
まとめ:定着は「採用」ではなく「育成と環境」で決まる
優秀な人材の定着は、採用の問題ではなく、育成・評価・キャリア設計の問題です。「辞めてから気づく」サイクルを断ち切るためには、在職中の人材体験を戦略的に設計することが欠かせません。
今週の一歩として、自社で「辞めてほしくなかった」と思う直近の退職者を一人思い浮かべ、その人が辞めた本当の理由を一行で書いてみてください。そこに組織改善のヒントが隠れています。
ディレクターズコネクトでは、定着と成長を両立する人材育成の設計をご支援しています。「優秀な人が辞めていく」という課題を感じている方は、ぜひお気軽にご相談ください。