「評価制度は整備した。研修も実施している。でも、なぜか人が育たない」——その原因が評価と育成の「断絶」にあるとしたら。制度としてはどちらも存在しているのに、社員から見ると両者がまったく別の話として動いている。そんな組織は少なくありません。
この2つが連動していない組織では、さまざまな問題が静かに積み上がっています。
「評価されないことは、やらなくなる」の法則
人は、評価される行動を増やし、評価されない行動は自然とやめていきます。これは人間の基本的な行動原理です。
だとすれば、研修で「部下の話をよく聞くことが大切」と学んでも、それが評価制度に反映されていなければ、忙しい現場では優先度が下がります。逆に、評価制度で「短期成果」だけが評価される組織では、育成に時間をかけるマネジャーは「仕事が遅い」と見られかねません。
研修で学んだことと、評価で求められることが矛盾していれば、学びは現場に定着しません。
国の資料も、この分断を課題として挙げています
経済産業省の「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書」(通称・人材版伊藤レポート、2020年9月30日公表)は、経営戦略と人材戦略が連動していないことを、日本企業の課題として繰り返し指摘しています。
評価制度と育成の分断は、その一部です。評価制度は「いまの成果をどう測るか」の仕組みで、育成は「これから何ができるようになってほしいか」の仕組みです。この2つが別々に設計されていると、社員から見たときに会社が矛盾したことを言っているように映ります。
上場企業には2023年3月期から人的資本の開示が義務づけられました。「何人研修を受けたか」だけを出す企業と、「その育成が評価や配置にどうつながっているか」まで出す企業とで、読み手の受け取り方は変わります。
出典:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書(人材版伊藤レポート)」2020年9月30日(座長:伊藤邦雄)
評価と育成がバラバラな組織で起きる3つの問題
▶ 問題1:管理職が部下育成を「後回し」にする
管理職の評価指標が数字・業績中心であれば、育成に使う時間は「コスト」に見えます。育成行動(1on1の実施、フィードバック、仕事を任せる)が評価に反映されなければ、忙しいマネジャーが真っ先に削るのが育成時間です。
▶ 問題2:研修で学んだことが現場で実践されない
「いい研修だった」と思っても、実践したときに上司や組織から評価されなければ、行動変容は持続しません。研修の学びを現場で試す機会と、それを承認する仕組みがセットで必要です。
▶ 問題3:人材育成が「人事のイベント」にとどまる
評価制度と連動していない研修は、現場から「人事が主催するイベント」と見なされます。経営・評価・育成がひとつの方向を向いていない限り、育成は組織の本流にはなりません。
評価制度と育成を連動させる設計のポイント
▶ 管理職の評価に「育成行動」を組み込む
部下の成長支援・1on1の実施頻度・フィードバックの質など、育成に関わる行動を管理職の評価指標に含めます。「評価される育成行動」を明確にすることで、現場のマネジャーが動く理由になります。
管理職の評価項目に「部下のスキルアップ支援」を加えると、それまで後回しにされていた1on1やフィードバックの優先度が上がります。評価に入るかどうかで、現場の行動は劇的に変わるのです。
▶ コンピテンシー(行動評価基準)と研修テーマを揃える
評価制度で重視する行動特性(コンピテンシー)と、研修で育成するスキル・行動を一致させます。「評価で問われること」を「研修で学ぶ」という構造が、育成の納得感を高めます。
▶ 育成計画を評価面談の中で扱う
半期・年次の評価面談に「次の半期で成長したいこと」「そのために取り組む育成機会」を組み込みます。評価と育成が同じ対話の中で扱われることで、育成が日常の業務と地続きになります。
まとめ:育成が「機能する組織」は、評価と連動している
人材育成を本当に機能させたいなら、評価制度との連動は避けて通れません。研修だけ、評価だけを単独で整備しても、組織としての効果は限定的です。
「育成に投資しているのに成果が出ない」という状況なら、評価制度との接続を見直すことが突破口になるかもしれません。
今週の一歩として、現在の管理職評価項目を一つ見直し、「育成行動が評価されているか」を確認してください。もし入っていなければ、次の評価制度改訂で追加することを検討してみましょう。
ディレクターズコネクトでは、評価制度と連動した育成設計のご支援も行っています。「育成と評価をどうつなげるか」という課題をお持ちの方は、ぜひご相談ください。