「経営幹部候補にはMBAを」——そう考える企業は少なくありません。MBAが有効な手段であることは確かです。しかし、MBAを取得すれば経営幹部として通用するかというと、話はそれほど単純ではありません。それだけでは足りない理由があります。
この記事では、経営幹部育成に本当に必要な要素と、MBAでは補えない部分を整理します。
MBAが提供できるものと、できないもの
MBAの強みは明確です。経営戦略・財務・マーケティング・組織論などの体系的な知識が得られ、多様なバックグラウンドを持つ仲間とのネットワークが形成される。知識のフレームと視野の広がりという点では、非常に価値があります。
しかし、MBAで学べないことがあります。
- 自社の文脈でどう意思決定するか
- 修羅場を経験して身につく判断力
- 社内外の人を動かすための関係構築力
- 組織の現実の中でリーダーシップを発揮する経験
経営幹部に求められるのは「知識」だけでなく、「修羅場経験」と「人間的な成熟」です。これはMBAのカリキュラムでは育てられません。
成功した経営者は、どこで学んだと答えたか
この問いを実際に聞いた研究があります。米国のCenter for Creative Leadership が、成果を上げた管理職・経営層およそ200名に、自分の能力がどこで培われたかを振り返ってもらった調査です。
返ってきた答えの内訳が、いわゆる「70:20:10」です。
- 70%——実際の仕事の経験、任された役割、直面した問題
- 20%——他者との関わり。上司や先輩からの助言、フィードバック
- 10%——研修や書籍など、形になった学習
MBAは、この10%の部分を厚くするものです。厚くすること自体には意味があります。枠組みを持たずに経験だけを積むと、その人固有の勘にしかなりません。ただ、10%を厚くしても、残りの90%が設計されていなければ経営幹部は育たない、というのがこの数字の読み方です。
なお、この比率は約200名の振り返りに基づくもので、厳密な実験で測られた配分ではありません。目安として受け取るのが妥当です。
出典:McCall, M. W., Lombardo, M. M., & Eichinger, R. W.(Center for Creative Leadership)による管理職調査。The Career Architect Development Planner (1996) ほかで示された
経営幹部育成に不可欠な「修羅場経験」の設計
優れた経営幹部に共通するのは、修羅場と呼ばれる厳しい経験を乗り越えてきたという事実です。
- 前例のない難しいプロジェクトのリード
- 組織変革や再建のような困難なミッション
- 社内外の利害関係者を巻き込みながら動かす経験
- 失敗し、そこから学んで立て直した経験
こうした経験を「偶然」に任せるのではなく、意図的に設計・提供することが経営幹部育成の核心です。「修羅場アサインメント」を計画的に行うことで、教室では得られない力が育まれます。
たとえば次世代経営幹部候補に「既存事業の立て直しプロジェクト」のような難度の高いミッションをアサインし、四半期ごとに経営陣とのレビューをセットで設計する。このかたちが、意思決定力・人を動かす力・逆境への耐性を最も鍛えます。いずれも教室では代替できない部分です。
経営幹部育成に有効な5つのアプローチ
▶ アプローチ1:ストレッチアサインメント
既存事業の立て直しや新規領域の立ち上げなど、裁量と責任の大きいミッションを任せます。数字と人の両方に責任を持つ経験は、講義では代替できません。伴走者を置き、判断の理由を言語化させることで、経験が学びとして残ります。
▶ アプローチ2:経営陣とのダイアログ
現経営陣と直接対話し、経営判断の現実・葛藤・思考プロセスを生で学ぶ機会を設けます。メンタリングや経営会議へのオブザーブ参加なども有効です。
▶ アプローチ3:360度フィードバック
上司・同僚・部下からの多角的なフィードバックを通じて、自己認識と他者からの見られ方のギャップを把握します。自己認識の精度が高まることで、リーダーとしての成長が加速します。
▶ アプローチ4:エグゼクティブコーチング
個別のコーチングを通じて、経営幹部候補としての思考・行動パターンを深く掘り下げます。組織の中では話しにくいテーマも扱えるのがコーチングの強みです。
▶ アプローチ5:社外との接点を増やす
社外の経営者・有識者との交流、業界団体への参加、社外取締役との対話など、社外からの視点と刺激を継続的に得る機会を設けます。
まとめ:経営幹部育成は「10年単位の投資」
経営幹部は、短期間の研修や資格取得で育てられるものではありません。知識・経験・人間的成熟を長期にわたって育てていくプロセスが必要です。
「次世代の経営幹部が育っていない」と感じているなら、今から10年単位の視点で育成設計を始めることが急務です。
今週の一歩として、自社の「経営幹部候補」と思う人物を一人思い浮かべ、その人が過去1年間に「修羅場」と呼べる経験をしたかどうかを確認してみてください。なければ、意図的に設計する必要があります。
ディレクターズコネクトでは、経営幹部・次世代リーダーの育成設計をご支援しています。長期的な人材投資を考えている方は、ぜひお気軽にご相談ください。