「研修の費用対効果を示してほしい」と経営層から求められ、答えに詰まった経験はありませんか。研修効果を「測定している」という組織でも、実際には研修直後の満足度アンケートだけで終わっているケースは珍しくありません。つまり、「測っている」と「本当の効果を捉えている」は全く別の話です。

研修効果の「見える化」は、決して難しいことではありません。測り方のフレームを知り、自社に合った指標を設計することで、研修の価値を経営に説明できるようになります。

なぜ研修効果が「測れない」のか

研修効果が測れない主な理由は3つあります。

▶ 「何のための研修か」が曖昧なまま実施している

目的が「スキルアップ」「意識改革」など抽象的なままでは、何をもって成功とするかが定義できません。測定の前に、目的の明確化が必要です。

▶ 満足度アンケートだけで終わっている

研修直後のアンケートは「受講者の感想」であり、学習効果の証明ではありません。「良い研修だった」と「業務が変わった」は別の話です。

▶ 研修と業績の因果関係が複雑

研修の効果は、職場環境・上司の関与・組織文化など多くの要因と絡み合うため、純粋な効果測定が難しいのも事実です。

研修効果測定の基本フレーム「カークパトリックモデル」

研修効果を測るための代表的なフレームワークとして、米国の教育学者ドナルド・カークパトリックが提唱した「カークパトリックモデル」があります。4つのレベルで評価を構造化します。

  • レベル1:反応(Reaction)

研修に対する受講者の満足度・反応。アンケートで測定。

  • レベル2:学習(Learning)

知識・スキル・態度の変化。テストやロールプレイで測定。

  • レベル3:行動(Behavior)

職場での行動変容。上司の観察・自己評価・360度評価で測定。

  • レベル4:成果(Results)

組織の業績・離職率・生産性への影響。KPIデータで測定。

多くの企業がレベル1で止まっています。レベル3・4まで設計できると、研修の経営的価値を示しやすくなります。

たとえば管理職研修の効果を、レベル3(行動変容)にあたる「部下への週次フィードバック実施率」で測ると、研修前と3ヶ月後の変化が数字で見えるようになります。その変化を離職率のようなレベル4の指標と並べて示せると、経営層への説明材料になります。

この枠組みは、60年以上前に示されたものです

4段階モデルは、ドナルド・カークパトリックが1959年11月から1960年2月にかけて発表した一連の論文で示したものです。60年以上使われ続けているわけですが、それは枠組みが優れているからというより、多くの組織がいまだに第1段階で止まっているからでもあります。

出典:Kirkpatrick, D. L. (1959-1960). Techniques for evaluating training programs (Parts I-IV). Journal of the American Society of Training Directors, 13(11)-14(2).

もう一つ、押さえておきたい研究があります。研修で学んだことが職場で実践されるか(転移)は、研修そのものの質だけでなく、職場の環境や上司の関わりに大きく左右されることが、Baldwin & Ford(1988)以降、Blume らの89研究のメタ分析(2010)を含めて繰り返し示されています。

つまり、第3段階(行動)が動かないとき、疑うべきは研修の中身だけではありません。戻った職場に試す余地があったか、上司が変化を歓迎したか。測る対象を研修の中に閉じ込めると、原因が見えなくなります。

出典:Baldwin, T. T., & Ford, J. K. (1988). Transfer of training: A review and directions for future research. Personnel Psychology, 41(1), 63-105./Blume, B. D., Ford, J. K., Baldwin, T. T., & Huang, J. L. (2010). Transfer of training: A meta-analytic review. Journal of Management, 36(4), 1065-1105.

自社に合った評価指標の設計ステップ

フレームを知ったうえで、実際に指標を設計する手順を紹介します。

▶ ステップ1:研修の「ゴール行動」を定義する

研修後、受講者が職場でどんな行動を取れるようになっていれば成功か?を具体的に言語化します。「提案書の質が上がる」「1on1を週1回実施している」など、観察・測定できる形で定義します。

▶ ステップ2:測定のタイミングを決める

研修直後・1ヶ月後・3ヶ月後など、複数のタイミングで測定することで変化の持続性が分かります。

▶ ステップ3:測定方法をシンプルに設計する

複雑な仕組みは続きません。上司によるチェックリスト、簡単なアンケート、KPIデータの照合など、運用できる方法で設計します。

まとめ:「測れない研修」は、改善もできない

研修効果が測れないということは、研修の改善もできないということです。PDCAを回し、育成の質を上げていくためにも、測定の仕組みを持つことは不可欠です。

また、測定結果を経営に報告できれば、育成予算の確保にも有利に働きます。「効果が見えない」から「効果が示せる」に変えることが、人事担当者としての影響力を高めることにもつながります。

今週の一歩として、直近で実施した研修を一つ選び、「その研修で変わってほしかった行動」を一つだけ書き出してみてください。それを測定できる形で言語化することが、効果測定設計の第一歩です。

ディレクターズコネクトでは、効果測定の設計からご支援しています。「何をKPIにすればいいか分からない」という段階からでも、ぜひご相談ください。