「親会社から来た部長が、前の会社のやり方で進めようとして、現場とかみ合っていない」。グループ会社・関連会社の人材育成でご相談を伺っていると、この話はかなりの頻度で出てきます。
逆の立場からも、同じ話を聞きます。出向した側からは「何を期待されているのか分からないまま、半年が経った」。
どちらの話にも、悪い人は出てきません。出向で来た方は、前の会社で成果を出してきたから選ばれています。受け入れる側も、力を借りたいから迎えています。それでもかみ合わないのは、本人の能力の問題ではなく、前提の違いが言葉になっていないからだと私は考えています。
通っていた進め方が、通らない
出向した方が最初に戸惑うのは、仕事の中身より、仕事の進め方です。
誰が決めるのか。どこまで根回しをしてから会議に出すのか。部下にはどの細かさで指示を出すのか。報告は口頭でよいのか、書面が要るのか。前の会社で十年、二十年と身につけてきたやり方は、本人にとっては「普通」になっています。普通なので、違うと気づくまでに時間がかかります。
しかも、規模も人の構成も違います。親会社では専任の担当がいた仕事を、子会社では管理職が自分で抱えていることもあります。同じ「部長」という肩書でも、求められる動き方はまったく別物です。
ここで起きやすいのが、前の会社のやり方を正解として持ち込んでしまうことです。本人に悪気はありません。ただ、受け取る側からは「うちの事情を分かっていない」と見えます。
受け入れる側も、実は言葉にしていない
では、受け入れる側ははっきり伝えているかというと、そうでもないことが多いのです。
親会社のやり方を持ち込んで、変えてほしいのか。それとも、いまのやり方を理解したうえで、支えてほしいのか。この一点が決まっていないまま着任を迎える例を、何度も見てきました。
決まっていないと、出向した方は自分の経験から推測するしかありません。推測が外れても、誰も指摘しません。遠慮があるからです。そして半年ほど経ったころに、「そういうつもりで来てもらったのではなかった」という話になります。
もう一つ、見落とされやすいのが生え抜きの社員の側です。重要なポストに親会社から人が来る構図が続くと、この会社で上を目指す意味が本人の中で薄れていきます。出向者の受け入れは、出向者一人の話ではなく、受け入れる組織全体の話でもあります。
着任の前後に、言葉にしておく三つのこと
大がかりな制度をつくる話ではありません。着任の前後に、次の三つを出向する方と受け入れる側の両方で言葉にしておくだけで、かみ合わなさはかなり減ります。
▶ 何を任せたいのか
変えてほしいのか、守ってほしいのか。変えてほしいなら、どこをか。ここが一番大事で、一番あいまいにされやすいところです。
▶ どこまで決めてよいのか
その場で決めてよい範囲と、受け入れ側の役員に上げる範囲、出向元に相談する範囲。出向という形は、決める人が二か所にいる状態です。線を引いておかないと、本人が毎回迷います。
▶ 何を、誰に、どの頻度で伝えるのか
出向した方は、出向先の上司と出向元の人事の両方に向けて仕事をしていることがあります。どちらに何を伝えるのかを決めておかないと、片方だけが状況を知らない、ということが起きます。
出向者だけを集めても、戻れば一人になる
出向者向けの研修を行うこと自体は、よいことだと思います。ただ、出向した方だけを集めて学んでもらっても、職場に戻れば一人です。受け入れる側の前提が変わっていなければ、学んだことを使う場がありません。
経験上、効くのは出向する方と受け入れる側を同じ場に置く形です。お互いに何を期待しているのかを、同じ場で言葉にする。これは研修というより、すり合わせの時間に近いものです。短い時間でも組めますし、着任の前後が最も効く時期です。
まとめ
出向で来た管理職が力を出せないとき、原因は本人の能力ではなく、何を任せるのか、どこまで決めてよいのか、誰に伝えるのかが言葉になっていないことがほとんどです。
そしてそれは、出向者だけでなく、受け入れる側が一緒に決めることでもあります。片方だけを変えようとしても、職場に戻れば元の前提が待っています。
▶ 今週の一歩
出向で来ている方、あるいはこれから来る方を一人思い浮かべてください。受け入れる側の責任者と、その方本人に、「着任から半年後、何が変わっていれば成功か」を別々に一行で書いてもらい、並べてみてください。二つの文が同じなら、そのまま進めて大丈夫です。違っていたら、その違いが最初に話し合うべきところです。
グループ会社・子会社での進め方は、グループ会社・子会社の人材育成と、出向者の受け入れにまとめています。ぜひお気軽にご相談ください。