「トップ営業のやり方を、全体に広げたい」。営業組織からいただくご相談で、いちばん多いかたちです。

たいていは、すでに一度試されています。成績のよい人に発表してもらった。ロールプレイングの場を作った。手順書を書いてもらった。それでも変わらなかった——というところからご相談が始まります。

うまくいかないのは、本人が出し惜しみしているからではありません。本人にとって当たり前になっていることは、質問されない限り言葉にならないからです。

「どうやっているんですか」では出てこない

まず、聞き方の問題があります。「どうやって売っているんですか」と正面から聞くと、返ってくるのはたいてい一般論です。「お客様の立場で考えることですね」「まめに連絡することです」。嘘ではありませんが、これを聞いて動ける人はいません。

本人が隠しているのではなく、答えられる形で質問されていないのです。判断は、具体的な場面とセットでしか思い出せません。

有効なのは、実際に成約した案件を一つ持ってきて、時間を追って聞く形です。この問い合わせが入ったとき、最初にどこを見ましたか。なぜそこを見たのですか。そのとき他にどんな可能性を考えて、なぜ捨てましたか。こう聞くと、一般論ではなく判断が出てきます。

もう一つ、聞き手は第三者のほうが進みます。上司が聞くと評価の場になり、同僚が聞くと「そのくらい分かっている」という前提が働いて、当たり前の部分が飛ばされます。当たり前の部分こそ、いま欲しいものです。

差がつく場所は、だいたい決まっている

「営業力」とひとまとめに見ているうちは、どこを直せばよいかが見えません。場面に分けると、詰まっている箇所が特定できます。不動産の仲介であれば、次の三つに分かれます。

▶ 反響が入った直後

▶ 追客の途中

▶ 意思決定の場面

この三つは、必要な判断も、詰まる理由も別物です。反響対応で差がつくのは、返信の速さよりも「最初に何を確かめるか」であることが多くあります。追客で差がつくのは、続ける熱心さよりもどこで見切るかです。意思決定の場面で差がつくのは、話し方よりも、その場に何を持ち出しておくかです。

どの場面で落ちているのかは、実際の案件の記録を並べれば見当がつきます。全部を一度に直す必要はありません。

言葉にしただけでは、共有されない

型ができたのに現場が変わらない、という段階でご相談をいただくこともあります。原因は、たいてい次の二つです。

一つは、置き場所がないことです。型を決めても、案件の経緯が個人のメモやメールの中にしか残っていなければ、後から誰も辿れません。共有されないのは意識の問題ではなく、記録が個人に紐づいたままだからです。

もう一つは、教えると自分が損をする状態になっていることです。評価が個人の成果だけを見ている組織では、時間を割いて後輩に教えた人が、その分だけ数字を落とします。評価に触らずに運用だけ変えると、数か月で元に戻ります

何から手をつけるか

大きな仕組みを作り直す話ではありません。実際に動いた順に書きます。

▶ 一人・一場面・一案件から始める

全員から聞き取ろうとすると、途中で止まります。まず一人、一つの場面、一つの案件に絞ります。ここで出てくる分量が、思っていたより多いことに気づくはずです。

▶ 型は短くする

書き出すと、つい網羅したくなります。ただ、現場で思い出せるのはせいぜい三つです。増やすほど使われなくなります。

▶ 試す場は、いまある時間の中に置く

新しく会議を作ると、忙しい時期に最初に消えます。朝礼の五分、案件相談のついでの一本。既にある時間に差し込むほうが残ります。

▶ 評価の話を、同じ時期に始める

教えた人が報われる形になっているか。ここは人事の領域なので時間がかかります。だからこそ、型づくりと同時に着手しておく必要があります。

まとめ

属人化は、能力の問題でも、意識の問題でもありません。言葉になっていないことと、残る場所がないことと、共有する理由がないこと。この三つが重なった状態です。

裏を返せば、手をつける順番があります。まず聞き出して言葉にする。次に置き場所を決める。そのうえで、教えることが損にならない形にする。順番を飛ばすと、たいてい元に戻ります。

▶ 今週の一歩

成果を出している人を一人思い浮かべて、直近で成約した案件を一つ選んでください。その人に「最初に何を見たか」だけを聞いてみてください。一問で構いません。返ってきた答えが一般論なら、聞き方を変える余地があるということです。具体的な場面が出てきたなら、そこから先は同じ要領で辿れます。

不動産の営業組織での進め方は、不動産会社の営業の属人化を解消する研修にまとめています。ぜひお気軽にご相談ください。